聞いてくれてありがとう

自分が、自分を広げていくこと

ただ、道を進んだり

ただ階段を上がっていくんじゃなくて

途方もないくらいに広い

海とか空みたいに

全部が包括された場所で生きられるようになること

 

あのとき知ろうともしなかったことが

一側面でしか見られなかった物事が

実は 縦にも横にも、上にも下にも広がっていたことを知ったとき

わたしは、

なんて自分は未熟だったんだろうと思わずにはいられなかった。

 

あとになって、あのときわかったようなフリをしてゴメンと

自分を恥じることももちろんあるけれど

大事なことは、そう、どんな場所に対しても

敬意や、認めることや、理解を示すことが大事だったんだと。

 

間違っていることを間違っているというのは簡単で

知っていることと認めることは違い

理解をしていても、それを示すことの大切さを、わたしは知らなかった。

 

 

セラピストを脱いで関わる愛するひとから教えてもらうことが、山ほどある。

 

あの時はゴメンと、後悔したって二度と戻らない時間を巻き戻すことはできない代わりに

今この瞬間に、いつまでもはなしを聞いていようと思ったんだ。

 

仕事の話や、毎日どんな思いで会社にいるかや、どうして本を読むかや、上司のことや、色々な話をするようになった彼が

わたしが思っていたよりももっとうんと、色々なことを抱えて戦ってんだってことを知って

本当気取ったアドバイスなんかじゃなんかが必要なわけじゃなかったんだよな、と何度も恥ずかしくなったけど

わたしにできることなんて、この細い背中を彼の腕の中に滑り込ませるみたいに差し出すくらいしか無くて

もどかしく、それでも話してくれることがただ、嬉しかった。

 

眠い目をこすりながら、回らない頭を胸にもたらせるわたしを遮るようにして

「マイ、もう寝な。ちょっとしたら俺も上にいくから」と切り上げられて

ふらふらと暗がりの階段を上がる間

 

優しい声で

「マイ、ありがとう」

と聴こえた。

 

わたしは一瞬聞き慣れぬ言葉に驚いて、立ち止まって

 

「え、何が」と思わず言ったんだけど

 

「ん、はなし聞いてくれて」

と彼はそう言って

 

わたしはただ聴いてるだけで、何も、しなかったのに

彼のことを話してくれることがただ嬉しくて、

知れば知るほど、また好きになって

胸がいっぱいになった。

 

 

 

「…こちらこそ話してくれて、ありがとう」

 

あったかい時間を噛み締めるようにして
文字通りその言葉しか出てこなくて

わたしはまた彼の横で眠り、彼と話す優しい夢を見て、

朝を迎える。

 

 

 

 

 

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